神社崇敬会の秀島です。
先日の神社の擬人化ゲーム「社にほへと」に関するブログ記事がたくさんを方に読んでいただいたようで、SNS上でも賛否さまざまなご意見をいただきました。有難う御座いました。
肯定していただいているご意見については、私の書いた内容についてご理解を頂けて嬉しく思います。有難う御座いました。そして「艦これ」や「刀剣乱舞」などの擬人化ゲームのプレイヤーさまからは批判的なご意見もいただいています。批判的なご意見の中で多かったのは、神社が擬人化されゲーム化されることで発生する経済効果について無視してはならないというご意見、あと、Googleの検索結果の汚染(サジェスト汚染)はGoogleの問題であり擬人化キャラは無関係だというご意見、あと、「社にほへと」開発中止は信仰の問題ではなく著作権の問題だというご意見、その他さまざまなお考えを知ることが出来ました。
批判的なご意見をまとめると
- ゲームの経済効果は無視してはいけない開発中止は勿体ない
- サジェスト汚染はGoogleの責任で擬人化ゲームのせいではない
- 「社にほへと」の開発中止は知的所有権の問題で信仰とは無関係だ
という感じになるかと思います。
本エントリーは、神社に対していわゆる擬人化キャラ、二次元キャラが及ぼす経済効果について、具体的な経済効果の発生する観光、そしてそれが神社の根幹である信仰に対してどのように関係するのかを書いていきたいと思います。
前提として
弊会(一般社団法人神社崇敬会)は「全国8万社の神社に崇敬会を」というミッションを掲げて活動しています。ですから、個々の事例を論じて大局を語るといよりも、皆様がご存知のような知名度のある神社、参拝者の多い大規模な神社、特殊な御神徳や由緒のある神社から、地域の信仰の場として地域の氏子や崇敬者によって護持運営されている小規模な神社まで、どうしたらすべての神社を支えていける仕組みを作っていけるかという視点で事象を捉えますので、その点だけはご留意ください。
神社の収入について
擬人化キャラによる経済効果が神社に及ぼす影響を語る上で、現状の神社の経済活動について身近な例を挙げて追ってみましょう。まずは全国にある神社の数について、文化庁が発行している平成28年度の宗教年鑑を見ると、神社本庁包括の神社数は約8万社、教師数(神道でいう神職者)が約2万人とされています。
一般的に、神社が全国に8万社という数字は全国のコンビニエンスストア5万店よりも多い、と言われていますが、神社の8万社の中には村の人達だけで守られている鎮守なども含まれているために、このような数字になっています。神職者数(宗教年鑑では教師)の人数が約2万人というのは、実際に奉職(神社にお務め)している人数なのか、このあたりは正確ではありません。
神道系宗教法人の施設と人員数
神社数 | 78,917社 |
神職数 | 21,782人 |
文化庁 宗教年鑑 平成28年版より
神社の収入チャネル
神社の収入チャネルは大きく分けて3つあります。
- 神社の日々の参拝者から奉納される賽銭や、例大祭などのときに氏子や崇敬者から奉納される初穂料や玉串料など、「参拝」によって発生する収入。
- 神社内でおこなう初宮詣、七五三詣、災厄消除や安産祈願などの諸祈願「内祭」(神社内で行う祭典)による初穂料の収入。
- 神職が神社外に出張しておこなう地鎮祭、上棟祭、事務所開き、神棚祓いなど「外祭」(神社の外で行う祭典)による初穂料の収入。
これらが現代の神社の主な収入源となります。神社は積極的な勧誘や布教を行わないので、日本人の生活に根ざした様々な祭礼で発生する初穂料などの喜捨金(寄付)によって神社の収入は成立しています。では、これらの神社の収入の規模はどの程度なのかを見ていきたいと思います。
地鎮祭による収入(外祭)
神社の大切な収入源である地鎮祭や上棟祭などの外祭について。国土交通省 建築物着工統計(平成28年計分)によると新設住宅着工戸数は約97万戸。これは20年前の着工戸数の約164万戸に比べると60%程度まで落ち込んでいます。これが地鎮祭の需要ということになります。
地鎮祭の初穂料についてはそれぞれあると思いますが、いろいろ調べた結果だいたい3万円くらいであろうと予測して、年間の着工戸数97万戸すべてで初穂料の収入が発生しているとして全体で290億円。これを全国の神社数8万社で均等割にすると1社あたり約37万円(年間)、神職一人あたり134万円(年間)という数字になります。しかし、地鎮祭は仏教寺院の僧侶がおこなう場合もありますので、地鎮祭需要のすべてが神社の収入になるとは限りません。
新設住宅着工は数が限られていて、かつ数は減少傾向にあるために、住宅メーカーなどと提携するなどして安定した数の地鎮祭を受けるなどの努力をされている神社もあります。
新設住宅着工戸数 | 967,237戸(20年前の約60%) |
地鎮祭初穂料 | 30,000円 |
初穂料収入合計 | 29,017,110,000円(290億円) |
神社一社あたり | 371,395円 |
神職一人あたり | 1,345,578円 |
初宮参りによる収入(内祭)
お子様が生まれて初めて神社に参拝する「初宮詣」について、厚生労働省 「人口動態統計」によると2016年の出生数は約98万人。これは44年前の1973年の209万人に比べると半分以下に減少しています。これが現状の初宮詣の需要ということになります。
初宮詣の初穂料は5千円〜1万円と言われているので、仮に1万円として計算すると全体での収入は98億円、これを神社数8万社で均等割にすると1社あたり約12万円(年間)、神職一人あたりで約45万円(年間)となります。
出生数 | 976,979人(40年前の約50%) |
初宮参りの初穂料 | 10,000円 |
初穂料収入合計 | 9,769,790,000円(約98億円) |
神社一社あたり | 123,798円 |
神職一人あたり | 448,526円 |
七五三参りによる収入(内祭)
上記の初宮詣をおこなったお子様がその後の成長において七五三詣をする場合を考えると、お子様が七五三詣をおこなうのは3歳・5歳・7歳のいずれかの年齢時に一回のみというのが多いと言われ、初穂料は5千円、全体での初穂料収入は49億円、神社1社あたりの均等割にすると約6万円(年間)、神職1人あたりで22万4千円(年間)となります。
初宮詣や七五三詣なども仏教寺院で行う場合もあるので、これらの収入のすべてが神社に発生するわけではありませんし、お子様が生まれたご家庭のすべてがこれらの祭礼に参加するわけではないので、実際にはもっと少ないと考えておいたほうが良いと思います。
出生数 | 976,979人 |
初宮参りの初穂料 | 5,000円 |
初穂料合計 | 4,884,895,000円(約49億円) |
神社一社あたり | 61,899円 |
神職一人あたり | 224,263円 |
上記の神社の収入例以外にも、様々な祈祷や祭礼、御守や御札などの授与品、昨今ブームの御朱印帳などで初穂料の収入は発生します。しかし、建物が建つ、お子様が生まれる、お子様が成長するなどの人為的な発生・自然発生の収入機会は年々減少しているのが現状です。
その他の収入
神社の収入のひとつに神宮(伊勢神宮)の神札である神宮大麻(天照大御神の御札)の初穂料の交付金があります。これは2013年度で約874万体と言われ、1体の初穂料が平均で800円、年間の初穂料は70億円。この半額35億円が各神社に交付金として交付されます。これを神社数8万社で均等割にすると約4万3千円(年間)となります。
これらは神社の収入発生機会の一部です。これらの数字を見て多少のどちらと見るかは人によって異なりますが、現状を把握することで将来の少子高齢化などを見据えた予測もできるのではないでしょうか。神宮大麻の頒布数も年々減少していると聞きますので、日本人の慶事に深く関わる神社での祭礼についても深刻な状況が訪れるのではないかと思います。
参考として仏教寺院の収入について
本筋とは関係ありませんが、日本人の弔事の法要を受け持つ重要な役割を果たしてきた仏教寺院における葬式時のお布施の収入について。前出の文化庁が発行している平成28年度の宗教年鑑によると、仏教の寺院数は7万5千寺、僧侶は34万人いると言われていて、日本国内の年間の死亡数が130万人、これが仏教寺院における葬式の需要となります。
葬式については過去には戒名が100万円以上・お布施が50万円以上、という時代もありましたが、現在では戒名50万円・お布施が20万円、家族葬だと戒名20万円・お布施10万円、またはそれを下回る費用のプランなども出てきています。葬式は遺族の費用負担が大きく、通夜葬式はおこなわず斎場で読経して納骨のみというプランも増えてきたように見えます。それでも10万円以上しますが。
では、ここで仏教寺院の主な収入のひとつである葬式時のお布施について見ていきます。現状で一般的に安価なプランとして戒名20万円・お布施が10万円という設定で計算するとこのようになります。
死亡数 | 1,307,765人 |
戒名・お布施 | 300,000円 |
収入合計 | 392,329,500,000円 (約3,920億円) |
寺院一寺あたり | 5,179,678円 |
僧侶一人あたり | 1,140,476円 |
観光と信仰
さて、冒頭でも書きましたが、SNSなどで見られた「擬人化キャラクターを使ったゲームは経済効果を生む」という意見について考えていこうと思います。
先日のエントリーで書きました、擬人化キャラや二次創作物がGoogleの検索結果を汚染(サジェスト汚染)し、本来得られるはずの検索結果が上位に表示されないために、擬人化キャラや二次創作物のイメージだけが拡散してしまうのではないかという懸念について。SNS上で以下のようなご意見をいただきました。なまうに。さん有難う御座いました。私も生うに大好きです。(意味が違うかもしれませんが)
…『けもフレ』でサーバルキャット(猫)への関心から動物園が爆発的に活性化した例を見ると、『社にほへと』で「神社名を検索したら美少女だらけになった。」から「→元のモデルとなった神社【本殿】に興味を持った。」って、神社文化への関心が活性化したら、それは「検索汚染」か??? https://t.co/AtA6TZacGK
— なまうに。 (@namauniy) 2017年9月17日
仮に神社を美少女キャラに擬人化したゲームが正式ローンチされて運用開始された場合、神社名で検索したら検索結果に神社をイメージした美少女キャラが表示されて、美少女キャラのモデルになった神社に興味を持って、結果として神社文化への関心が高まり活性化する。こういう現象が起きたら、それは検索結果の汚染と言えるのか。
これについては反論はございません。私は反論をしてはいけない立場にございませんので、いただいたご意見について検証し、より良い未来につながる方策を考えようにしてみます。「仮に」神社を擬人化したゲームがスタートして、なまうに。さんの言われる通り検索結果に美少女キャラだらけになって、その美少女キャラのモデルとなった神社に興味を持つというのはどういうことか、フローを描いてみました。
可愛い巫女さんのイラストはIWAYUUさまの作品を使用させていただいてます。
神社の擬人化ゲームがもたらす好結果とは、ゆるキャラブームや地方創生などで語られる事が多い、埋もれていたコンテンツスポットライトを当てて、興味を持ってもらうための機会の創出ということで良いでしょうか。
そうであれば、この図のように擬人化キャラクターのゲームが導入部であっても、その後に神社に興味を持ち、聖地巡礼や御朱印の収集などにとどまらず、崇敬会に入会したり、毎年の例大祭に参加して玉串料を納めたり、境内の清掃活動や町内行事を手伝う方が増えれば、それは本当に素晴らしいことだと言えます。
単に自分の興味が有るイベントだけに参加したり、意中のキャラクターやグッズが欲しいがために課金をするだけではなく、積極的な奉賛活動を通して少子高齢化や氏子の減少に悩む神社の護持運営に協力する人が増えれば、何も言うことはないかもしれません。
もし擬人化ゲームが実現していたらどうなっていたかは分かりませんが、これまでの「ガルパン」や「艦これ」や「刀剣乱舞」のファンたちがどのような行動をとったかを検証していただければ、およそ予想はできると思いますので、みなさんも考えてみてください。
経済効果や機会の創出は必ずしもすべてが正しい方向で作用するわけではない、というのは容易に想像できると思います。ゲームファン、擬人化キャラクターのファンからしてみれば、神社の護持運営よりも観光地の選択肢が一つ増えた程度の認識しかないのかもしれません。神社を語るときに信仰を持ち出すなという意見も見られました。これは残念なことだと悲しい気持ちになりました。
大切なことなのでもう一度書きます。神社は萌え擬人化コンテンツのために存在しているのではなく、神社は神職者や氏子や崇敬者によって支えられてきた信仰の場なのです。
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擬人化ゲームの経済効果を考えてみる
このような擬人化や美少女2次元キャラクターの例が出てくると、必ず「経済効果がある!」という意見が出てきますが、具体的な金額でいくらのお金が動けば経済効果と言えるのか考えてみたいと思います。1円でも経済効果があれば成功だ、というのではなく、神社が永続的に護持運営されるに十分な経済効果が必要だと考えています。ゲームに登場した特定の神社の参拝者数が増えて経済効果が数億円や数十億円程度であれば、それは経済効果とは言えず、単なるゲームファンの聖地巡礼のブームでしかないと考えています。
先にも書きましたが、全国に神社は8万社あり、奉職する神職の方は2万人、ということは一人で複数の神社の宮司を掛け持ちする、いわゆる兼務社という神社も多く存在します。一人の宮司が十社以上の神社の宮司を兼務しているという話はよく聞きます。そしてそういった神社はおおむね地方にあり、氏子数も少なく少子高齢化が進んでいる場合が多く、後継者問題についても切実です。
神社の収入は「参拝」「内祭」「外祭」の3つのチャネルがあります。これは先にも書きました。そしてその収入発生機会も少子高齢化で減少しています。知名度のある神社、規模の大きな神社は様々な活動を通して社頭隆昌を図り、奉職する神職者に対する給与も十分な額が支給できるのかも知れませんが、一人で複数社の神社を兼務するような環境下では十分な収入が得られないために他に仕事を持つ兼業宮司で神社を支えられている方もいらっしゃいます。
そんな現状をふまえ、神社を擬人化するリスクを犯すことで得る年間の経済効果(神社に直接流入する資金)について、私の考える最低ラインはこうなります。
神社一社あたり | 1,000,000円 |
神職一人あたり | 1,000,000円 |
必要な経済効果 | 100,699,000,000円 (約1,000億円) |
この数字の根拠ですが、神社一社あたり年間100万円の収入がプラスされれば、20年間積み立てることで2,000万円になります、この額は小規模な神社の大規模改修がギリギリできるかどうかの金額です。氏子や奉賛会からの寄付に頼っていた修復費用の積立が擬人化ゲームの経済効果で得られるなら、今後ますます少子高齢化や氏子の減少にも対応することができます。神職一人あたり年間100万円の収入がプラスされれば、後継者不足問題が緩和されると思います。
グッズが売れたとか、美術展の売上が数億円とか、二次創作物の頒布が活発になるとか、そういう局所的な経済効果ではなく、年間1,000億円の資金流入が永続的になれば、経済効果と言えるのではないでしょうか。しかし、これは物品販売ではなく喜捨金として神社の収入にならなければいけません。経済効果と簡単に言いますが、神社がこの先生き残っていくには、考えなければならないことがたくさんあるのです。
私の仕事は全国の神社の永続的な資金調達方法を提供することなので、こんな感じになってしまいましたが、ご納得いただけない方もいらっしゃるかもしれませんが、神社をずっと守っていくためにはどうしたらいいか、みなさまが考えるキッカケになったら幸いです。
以上、観光と信仰、擬人化キャラの経済効果と神社について私の意見を書かせていただきました。
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